胸腔鏡下食道切除・縦隔鏡下食道切除

徳島赤十字病院

外科 西野 豪志（木曜日外来）

食道とは、喉元から胃までつながる長い管腔臓器で、嚥下した食物を胃まで運ぶ機能を持ちます。食道がんは、喫煙や飲酒、胃酸の逆流などが原因で起こる悪性疾患です。早期から高度のリンパ節転移をきたし、転移部位は頸部・胸部・腹部の3領域に渡るため、食道がんの手術では、頸部・胸部・腹部の3つの領域のリンパ節郭清が必要です。また食道を切除した後、食物の通り道を再建するため、胃を細く形成したものを、腹部から胸部を通し頸部まで挙上する必要があります。複雑な手術が必要で、身体に与えるダメージも大きいものになります。以前は胸部、腹部に20cm以上の大きな傷をおいて、直接手を入れて手術を行っていましたが、近年は胸腔鏡・腹腔鏡を用いて、小さな傷で痛みやダメージを軽減した手術が主流になっており、当院でも第一選択としています。

胸腔鏡手術では、全身麻酔のもと、うつ伏せの体位で、肋骨の間に5か所の1～2cmの小さな傷をおき、胸腔鏡というカメラや鉗子を用いて、食道やリンパ節を切除します。胸の中の操作中は、右の肺を萎ませた状態で行います。そのあと、仰向けに体位を変え、腹部にも5か所の1～2cmの小さな傷をおいて、腹腔鏡というカメラや鉗子を用いて、腹腔内のリンパ節の切除と胃の剥離を行います。最終的に、腹部に4～6cmの傷を開け、がんの病巣を取り出し、胃を管状に形成したものを、頸部の傷まで挙上し、頸部の食道と胃を吻合します。手術時間は全部あわせると8時間程度かかります。大きな傷をおいていた時代と比べると、痛みが小さく、術後の回復も早い傾向にあります。入院日数は、リハビリ期間を含めて術後2～4週間程度が見込まれます。

胸部の手術歴などで、胸腔内の操作ができない患者さまや重篤な基礎疾患のある患者さまでは、身体へのダメージをさらに軽減した縦隔鏡手術を選択することがあります。縦隔鏡手術では、胸部の操作を行わず、腹部と頸部からのアプローチのみで、胸の中の食道とリンパ節を切除します。肺を萎ませる必要がないため、呼吸機能に障害のある患者さまには最適の術式です。胃による再建は胸腔鏡手術と同様に行い、手術時間は全部あわせて6～8時間程度です。胸に傷がないため、胸腔鏡手術よりもさらに術後の回復が早い傾向があります。

食道がんは、その他の消化器手術と比較して合併症の発生頻度が高いと言われています。主な合併症としては縫合不全、反回神経麻痺、術中術後出血、吻合部狭窄、乳糜漏、肺炎、腸閉塞、術後せん妄などです。これらの合併症を予防するため、術前からリハビリテーションを行います。運動器のリハビリに加え、呼吸のリハビリも行います。また、栄養士の管理のもと、術後の過剰な炎症反応を抑制するω-3系脂肪酸を含む栄養を摂取してもらいます。また歯科医による口腔内のクリーニングを行うことで、術後の誤嚥性肺炎を予防します。これらの術前準備のため少し早めに入院していただき、多くのスタッフが関わって準備を整えます。

食道がんは重大な疾患ですが、手術の侵襲を抑え、周術期管理を工夫し、からだにやさしい治療が提供できるようスタッフ一同全力を尽くします。